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実家を相続したくないときの相続放棄と、放棄した後の管理

実家だけを放棄することはできず、相続放棄は預貯金も含めたすべてを手放す手続きです。3か月の期限、放棄できなくなる行為、家庭裁判所での手続きと費用、次の順位の親族への影響、2023年改正後の管理義務、相続土地国庫帰属制度など放棄以外の選択肢を説明します。

最終更新 監修 宅地建物取引士 田中 美紗子

この記事の要点

  1. 相続放棄は実家だけを選んで手放すことができず、預貯金も含めた財産すべてを放棄する手続きになる
  2. 期限は相続の開始を知った時から3か月で、それまでに家財の処分や預金の引き出しをすると放棄できなくなる
  3. 2023年4月の改正で、放棄した人が実家の保存義務を負うのは、その家を現に占有している場合に限られた

相続放棄でできること、できないこと

相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとして扱われます(民法 第939条)。借金を引き継がずに済む代わりに、預貯金や株式などプラスの財産も一切受け取れません。

よくある誤解が「実家だけを放棄したい」という相談です。相続放棄は財産を選んで放棄する制度ではないので、実家だけ、山林だけを放棄することはできません。預貯金は欲しいが実家は要らない、という場合は、相続放棄ではなく遺産分割で決めます。ほかの相続人が実家を取得し、自分は預貯金を取得する内容で遺産分割協議書を作れば、実家の名義人にはなりません。預貯金だけを先に分けて実家を未分割のまま残すこと(一部分割、民法 第907条)はできますが、その場合の実家は相続人全員の共有のままで、手放したことにはなりません。全員に相続登記の義務と管理の負担が残るので、最終的には相続人の誰かが受け取るか、売って代金を分けることになります。

相続放棄を選ぶのは、借金が財産より多い場合や、実家の維持費と固定資産税が預貯金を食いつぶすと見込まれる場合です。持ち続けたときの負担は空き家の維持費シミュレーターで年額を出せます。

期限は3か月

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述します(民法 第915条)。親が亡くなったことを知った日から数えるのが普通です。先順位の相続人が放棄して自分が相続人になった場合は、そのことを知った日から3か月です。

3か月で財産と借金の調査が終わらない場合は、期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます。期限を過ぎた後でも、相続財産がまったく存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由があった場合には、財産の全部または一部の存在を認識した時(または通常認識できた時)から3か月を数えるとした最高裁判例(昭和59年4月27日)があります。ただし、これはプラスの財産も含めて「何もない」と信じていた場合の例外で、実家や預金があると知っていて借金だけを知らなかった場合にそのまま当てはまるわけではありません。期限を当てにせず、3か月以内に動いてください。亡くなった日を入れると期限の日付が出る相続の手続き期限カレンダーが使えます。

放棄できなくなる行為

相続財産を処分すると、相続を単純承認したものとみなされ、その後は放棄できません(民法 第921条)。実家に関して特に注意が要るのは次のような行為です。

  • 実家や土地を売る、長期の賃貸借契約を新たに結ぶ(建物3年・土地5年以内の短期の賃貸は除かれる)
  • 家財、家電、車を売る、捨てる、形見分けで価値のある物を持ち帰る
  • 親の預金を引き出して自分のために使う、親の債権を取り立てる
  • 遺産分割協議に参加して取得する財産を決める

一方で、雨漏りの応急修理のように財産の価値を保つための行為(保存行為)は処分に当たりません。葬儀費用を親の預金から払った場合は、金額が社会的に相当かどうかで裁判例の判断が分かれています。放棄するかもしれない段階では、親の財産には手を付けず、葬儀費用も自分のお金で立て替えておく方が安全です。遺品整理も、放棄するかを決めた後に回します。何もしないまま3か月が過ぎた場合も単純承認とみなされます(同条第2号)。また、放棄が受理された後でも、相続財産を隠したり勝手に使ったりすると単純承認とみなされます(同条第3号)。

家庭裁判所での手続きと費用

申述先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。郵送でも受け付けています。

  • 相続放棄の申述書(裁判所のウェブサイトに様式と記入例がある)
  • 収入印紙 800円分(申述人1人につき)
  • 連絡用の郵便切手(額は家庭裁判所ごとに異なる)
  • 亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 申述する人の戸籍謄本
  • 亡くなった人との関係によって、死亡の記載のある戸籍謄本など

申述後、家庭裁判所から放棄の意思などを確かめる照会書が届くことがあり、回答して返送します。受理されると相続放棄申述受理通知書が届きます。借金の債権者や法務局に放棄を証明する必要がある場合は、別に相続放棄申述受理証明書を申請します。

次の順位の親族に相続権が移る

子が全員放棄すると、相続権は亡くなった人の直系尊属に移ります。父母が優先し、父母がすでに亡くなっていて祖父母が存命なら祖父母です。直系尊属がいなければ兄弟姉妹に移ります(民法 第889条)。兄弟姉妹が亡くなっていればその子(甥・姪)です。自分が放棄した結果、叔父や叔母に借金の督促が届くことがあるので、放棄したことは次の順位の親族に伝えておきます。

相続人全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。実家を処分するには、利害関係人の申立てで家庭裁判所が相続財産清算人を選び、清算人が財産を換価して債権者に配ります。申立てには、清算人の報酬などに充てる予納金を求められることがあります。額は家庭裁判所と財産の内容によって異なり、財産から報酬をまかなえない場合は数十万円以上になることもあります。

放棄した後の実家の管理

2023年3月までの民法では、相続放棄をした人も、次の相続人が管理を始めるまで実家の管理を続ける義務を負うと定められていて、どこまでの責任があるのかがはっきりしませんでした。2023年4月1日施行の改正後の民法 第940条では、放棄した時に相続財産を現に占有している人だけが、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同じ注意で保存する義務を負う、と整理されました。

親と別に暮らしていて実家に関わっていない子は、この保存義務を負いません。親と同居していた子や、鍵を預かって実家の出入りや管理をしていた子は、占有していると判断される可能性があり、引き渡すまでは倒壊や越境を防ぐ程度の管理が求められます。

放棄以外の選択肢

放棄はすべての財産を手放すので、預貯金がある場合は損になることがあります。実家が要らないだけなら、次の方法も比べてください。

  • 相続して売る: 親が一人で住んでいた昭和56年5月31日以前の家なら、空き家の3,000万円特別控除(相続人が3人以上なら1人2,000万円、2027年12月31日までの売却が対象)で譲渡所得の税を抑えられる場合があります。3,000万円控除の判定と売却手取りの計算で、売った場合に残る額を確かめられます
  • 相続土地国庫帰属制度: 2023年4月27日に始まった、相続した土地を国に引き取ってもらう制度です。建物がある土地は対象外なので、実家は解体して更地にする必要があります。審査手数料は土地1筆あたり14,000円、承認されると10年分の管理費相当額の負担金(原則20万円、市街化区域の宅地などは面積に応じて算定)を納めます。解体費の見当は解体費用の目安計算で付けられます
  • 相続して持ち続ける: 維持費と固定資産税がかかり、管理が悪いと市区町村から勧告を受けて土地の固定資産税が上がります。空き家の管理責任と固定資産税を参照してください

相続放棄と相続税、生命保険金

生命保険金は、受取人に指定された人の固有の財産なので、相続放棄をしても受け取れます。ただし、相続税の計算では、放棄した人が受け取った保険金に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠は使えません。一方で、相続税の基礎控除と非課税枠の計算に使う法定相続人の数には、放棄した人も含めます。放棄した人がいる場合の相続税の目安は相続税の概算計算で出せます。

計算に使えるツール

出典

  • 民法 第915条、第921条、第939条、第940条: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 裁判所 相続の放棄の申述: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
  • 法務省 相続土地国庫帰属制度の概要: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
  • 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
  • 国税庁 No.4152 相続税の計算: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm

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