この記事の要点
- 期限が最も短いのは死亡届の7日で、3か月の相続放棄、4か月の準確定申告、10か月の相続税申告と続く
- 実家に関わる期限は相続登記の3年、空き家の3,000万円控除の3年目の年末(2027年末まで)、取得費加算の3年10か月の3つ
- 相続放棄をするなら3か月以内に財産と借金を調べ、それまで家財や預金に手を付けない
期限の一覧
相続の手続きは数が多く、窓口も市区町村、年金事務所、家庭裁判所、税務署、法務局に分かれています。期限の早い順に並べると次のとおりです。期限の起点は「亡くなった日」とは限らず、「亡くなったことを知った日」から数えるものがあります。
| 期限 | 手続き | 窓口 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届(火葬許可の申請と同時に出すのが普通) | 市区町村 | 戸籍法 第86条 |
| 10日以内 | 厚生年金の受給停止(年金受給権者死亡届) | 年金事務所 | 厚生年金保険法施行規則 |
| 14日以内 | 国民年金の受給停止、国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の資格喪失 | 年金事務所(障害基礎年金・遺族基礎年金だけなら市区町村)、市区町村 | 国民年金法施行規則、各保険の法令 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認(しない場合は単純承認になる) | 家庭裁判所 | 民法 第915条、第921条第2号 |
| 4か月以内 | 準確定申告(亡くなった年の所得の申告) | 税務署 | 所得税法 第124条・第125条 |
| 10か月以内 | 相続税の申告と納付 | 税務署 | 相続税法 第27条・第33条 |
| 1年以内 | 遺留分侵害額の請求(相続の開始と、侵害する贈与・遺贈を知った時から。相続開始から10年で消滅) | 相手方(内容証明郵便などで意思表示) | 民法 第1048条 |
| 2年以内 | 葬祭費(葬儀の翌日から)・埋葬料(亡くなった日の翌日から)の請求 | 市区町村、協会けんぽ・健康保険組合 | 国民健康保険法・健康保険法の時効 |
| 3年以内 | 相続登記の申請(取得を知った日から) | 法務局 | 不動産登記法 第76条の2 |
| 3年以内 | 生命保険金の請求 | 保険会社 | 保険法 第95条 |
| 3年目の年末 | 空き家の3,000万円特別控除を使って売る期限(2027年12月31日までの売却に限る) | (売却後に税務署へ申告) | 租税特別措置法 第35条 |
| 3年10か月 | 取得費加算の特例を使って売る期限(相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年まで) | (同上) | 租税特別措置法 第39条 |
| 10年 | 特別受益・寄与分を主張して遺産分割できる期間(2023年3月以前の相続は2028年3月31日まで猶予) | 相続人間、家庭裁判所 | 民法 第904条の3、令和3年改正法附則第3条 |
亡くなった日を入れると、これらの期限を日付で一覧にできます。相続の手続き期限カレンダーを使ってください。カレンダーの日付は、亡くなった日に相続の開始や不動産の取得を知ったものとした目安です。知った日が遅い場合や、葬儀の日から数える手続きは、期限が後ろにずれます。
最初の7日間
病院で亡くなった場合は、医師から死亡診断書を受け取ります。死亡届はその用紙と一体になっていて、亡くなったことを知った日から7日以内に、亡くなった場所、本籍地、届出人の所在地のいずれかの市区町村に出します。火葬には市区町村の火葬許可証が必要なので、実際には葬儀社が届出を代行し、亡くなった翌日か翌々日には済んでいることが多い手続きです。
死亡届を出すと、住民票と戸籍に死亡が記載されます。このあとの手続きで何度も使うので、死亡の記載がある戸籍謄本と住民票の除票は、記載が終わった時点で数通取っておくと二度手間になりません。
1か月目までにすること
年金を受け取っていた人が亡くなったら、年金の受給を止める届出をします。厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内です。日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、届出を省略できることがあります。止めずに振り込まれた年金は、あとで返還を求められます。逆に、亡くなった月までの年金で受け取っていない分(未支給年金)は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。
国民健康保険と後期高齢者医療の資格喪失、介護保険の資格喪失は、市区町村に14日以内に届けます。このとき、葬儀を行った人は国民健康保険や後期高齢者医療の葬祭費を請求できます。会社員の健康保険なら埋葬料です。どちらも2年で時効になります。
亡くなったことが金融機関に伝わると、口座は凍結され、引き出しも引き落としも止まります。公共料金やクレジットカードの引き落としを親の口座にしていた場合は、名義と支払い方法の変更が必要です。葬儀費用などで当面の資金が要る場合は、遺産分割の前でも、各相続人が単独で預貯金の一部を引き出せる仮払い制度があります。引き出せる額は「相続開始時の預貯金額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円までです(民法 第909条の2)。
3か月までに決めること
3か月の期限は、相続するか、相続放棄するか、限定承認するかを選ぶ期間です(熟慮期間といいます)。何もしないまま3か月が過ぎると、借金も含めてすべて相続する単純承認をしたものとみなされます。
この期間にやることは、遺言書の確認と、財産と借金の調査です。
- 遺言書: 公正証書遺言は、全国の公証役場で遺言の有無を検索できます。自筆の遺言書が見つかったら、開封せずに家庭裁判所の検認を受けます。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使っていた遺言は、検認が要りません
- 不動産: 毎年届く固定資産税の納税通知書(課税明細書)に、市区町村内の土地と建物が載っています。他の市区町村の不動産は、その市区町村で名寄帳を取ると一覧になります。2026年2月2日からは、法務局で亡くなった人が登記名義人になっている不動産を全国分まとめて証明してもらえる所有不動産記録証明制度も使えます(登記上の氏名・住所が違う不動産は漏れることがあります)
- 預貯金・証券: 通帳、郵便物、スマートフォンのアプリから金融機関を洗い出し、残高証明書を取ります
- 借金: 信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター)に開示を請求すると、ローンやカードの残高が分かります。保証人になっていないかも確認します
調査が3か月に間に合わない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。申し立ては3か月の期限内に行う必要があります。相続放棄を考えているなら、それまで家財の処分や預金の引き出しをしないでください。財産を処分すると、相続を承認したとみなされて放棄できなくなります。詳しくは実家を相続したくないときの相続放棄にまとめています。
4か月目: 準確定申告
亡くなった人に、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得があり、確定申告が必要な場合は、相続人が代わりに申告します。これが準確定申告で、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に、亡くなった人の住所地の税務署に出します。
公的年金等の収入が400万円以下でその全部が源泉徴収の対象になっており、年金以外の所得金額が20万円以下なら、生前と同じく所得税の申告は不要です。不動産を貸していた、事業をしていた、医療費が多くて還付を受けられる、といった場合が申告の対象になります。準確定申告で納めた所得税は、相続税の計算で債務として差し引けます(相続税法 第13条)。
10か月目まで: 遺産分割と相続税
遺産分割には期限がありませんが、相続税の申告がある場合は、10か月の申告期限までに分割を終えるのが実務上の目標になります。分割が決まっていないと、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を使わずに申告することになるからです。期限内に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出し、申告期限から3年以内に分割すれば、分割を知った日の翌日から4か月以内の更正の請求で特例を適用できます。ただし、いったん多めに納税する必要があり、3年以内に分割できない場合は、やむを得ない事情について税務署長の承認を受ける手続きが別に要ります。
相続税がかかるのは、課税価格の合計が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合です。かかるかどうかの見当は相続税の概算計算で付けられます。実家の土地の評価を下げる特例は小規模宅地等の特例の判定で確かめてください。
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作り、相続人全員が実印を押して印鑑証明書を付けます。この協議書は、相続登記、預貯金の解約、相続税の申告のすべてで使います。実家を共有名義にするかどうかもこの段階で決まります。共有にすると売るときに全員の同意が要るので、共有名義の実家の注意点を先に読んでおくと判断しやすくなります。
3年まで: 相続登記と実家の処分
相続で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。2024年4月1日の義務化より前の相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です(取得を知ったのが2024年4月以降なら、その日から3年)。正当な理由なく申請しないと10万円以下の過料の対象になります。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(2027年3月31日までは評価額100万円以下の土地は免税)で、相続登記の費用計算で司法書士報酬を含めた総額を出せます。手続きと書類は相続登記の義務化と必要書類で説明しています。
実家を売るつもりなら、3年前後に期限のある税の特例が2つあります。
- 空き家の3,000万円特別控除: 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ特例の適用期限である2027年12月31日までに売る必要があります。親が一人で住んでいた昭和56年5月31日以前の家が対象で、売却代金1億円以下が条件です。家と敷地を相続した人が3人以上いると、控除は1人2,000万円になります。3,000万円控除の判定で使えるかを確かめられます
- 取得費加算の特例: 相続税が課税された人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ると、その人の相続税の一部を取得費に加えて売却益を減らせます
2つの特例は同じ家の売却で併用できず、どちらか有利な方を選びます。どちらも売却の期限なので、売買契約と引渡しの期間を見込むと、相続から2年目には売るかどうかを決めておく必要があります。売った場合の手取りは相続した家の売却手取り計算で比べられます。
計算に使えるツール
- 相続の手続き期限カレンダー: 亡くなった日から各期限の日付と残り日数
- 相続税の概算計算: 基礎控除を超えるかと税額の目安
- 相続登記の費用計算: 登録免許税・実費・司法書士報酬
- 相続空き家の3,000万円控除 判定と節税額の計算: 要件の確認と税額の比較
- 相続した家の売却手取り計算: 仲介手数料と譲渡所得税を引いた手取り
出典
- 戸籍法 第86条(死亡の届出): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 民法 第909条の2、第915条、第1048条、第904条の3: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所 相続の放棄の申述: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm
- 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 法務省 相続登記の申請義務化について: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm