退職金で実家をどうするか、手取りと資金計画
退職金を実家のリフォーム、住み替え、解体に使う前に、退職所得控除で手取りがいくらになるかを確かめます。2026年から変わった確定拠出年金との調整、使い道ごとの資金計画の考え方、残す額の決め方を説明します。
退職金の手取り
退職金は、給与と分けて税金を計算します。退職所得控除を引き、残りの2分の1にだけ課税されるので、同じ額の給与より税金はずっと軽くなります。
退職所得控除は勤続年数で決まります。
- 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)
勤続35年なら、800万円 + 70万円 × 15年 = 1,850万円です。退職金が2,000万円なら、控除後は150万円、その2分の1の75万円が課税対象になります。所得税と住民税を合わせても十数万円で、手取りは1,980万円を超える計算です。退職金が控除額以下なら、税金はかかりません。
勤続5年以下の場合は扱いが違います。役員なら2分の1の計算がなく、役員以外でも控除後の額が300万円を超える部分には2分の1が使えません。
会社に「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、この計算で源泉徴収されて終わります。出していないと、退職金の額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。退職前に提出したかを総務に確認してください。
2026年(令和8年)1月1日以後に受け取る確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の一時金については、その後に会社の退職金を受け取る場合、前年以前9年内に受け取った一時金と勤続期間が重複する部分について退職所得控除を調整する扱いに変わりました。改正前は4年内でした。一時金を60歳で受け取り、退職金を65歳で受け取る計画だった人は、控除が重複分だけ減ります。受け取る順番と年を決める前に、税理士に試算を依頼してください。
手取りの概算は退職金手取りシミュレーターで出せます。
使い道を決める順番
退職金の使い道を実家から考える前に、順番があります。
- 生活費の不足分を先に確保する。年金受給までの期間と、年金で足りない月額を出し、その合計を退職金から取り分ける
- 住宅ローンや借入が残っていれば、返済に充てるかを決める
- 残った額を、自分の住まいと実家に使う
実家に使えるのは3の残額だけです。退職金が2,000万円あっても、年金までの5年間に月10万円不足するなら600万円は先に取り分けるので、実家に使えるのは1,400万円までです。
リフォームして住む
実家に住む選択は、家賃も住宅ローンもなくなる分、月々の支出が最も軽くなります。代わりに、築40年の家をこれから30年住める状態にするリフォーム費が最初にかかります。水回り、屋根と外壁、断熱、耐震で、1,000万円を超える見積もりは珍しくありません。
判断の順番は、耐震診断を先に受けることです。昭和56年5月以前の家で耐震性が不足していれば、耐震補強の費用が加わります。補強に数百万円かかる家なら、建て替えや、実家を売って別の家を買う選択と比べる必要があります。自治体の耐震診断と耐震改修の補助は、国の制度を通じて多くの市区町村にあります。
住む場合、相続税の面では小規模宅地等の特例が使えることがあります。要件は小規模宅地等の特例を見てください。
売って住み替える
実家を売り、今の家も売るか貸して、便利な場所に住み替える選択です。資金は「実家の売却手取り + 退職金の残額」で、ここから住み替え先の購入費か、賃貸なら家賃の総額を引きます。
実家の売却手取りは、昭和56年5月31日以前に建てられた家で要件を満たせば、相続空き家の3,000万円特別控除で譲渡所得税をほぼゼロにできます。期限は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日までの譲渡です。退職の時期と期限を並べて、間に合うかを先に確かめてください。手取りは売却手取りシミュレーターで概算できます。
解体して土地を持つ
住まず売れない実家を解体して、土地だけ持つ選択です。解体費が最初にかかり、その後は住宅用地の特例が外れた固定資産税が毎年かかります。退職後の収入は年金だけになるので、年20万円を超える土地の固定資産税を払い続ける負担は、現役時代より重くなります。
解体費と、その後10年分の固定資産税を足した額を、更地にして売った場合の手取りと並べて比べてください。解体費は解体費シミュレーターで、持ち続ける費用は空き家の維持費シミュレーターで出せます。
残す額
どの選択でも、退職金を実家に使い切らないことを勧めます。実家に住むなら、住み始めてからの修繕費が10年ごとに来ます。住み替えるなら、引っ越しと家具で予定より百万円単位で増えます。退職金の2割は実家の計画に入れない、という線を自分の基準にしています。税額は概算なので、退職金の受け取り方と実家の売却が同じ年に重なる場合は、税理士に相談してください。
計算に使えるツール
- 退職金手取りシミュレーター: 勤続年数と退職金額から手取りを概算
- 売却手取りシミュレーター: 実家を売った場合の手取り
- 解体費シミュレーター: 解体して土地だけ持つ場合の初期費用
- 空き家の維持費シミュレーター: 持ち続ける場合の年間費用
出典
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 財務省 令和7年度税制改正の解説(所得税法等の改正、退職所得課税の見直し): https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/explanation/PDF/p0077-0136.pdf
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
- 地方税法 第349条の3の2(住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226