相続した実家は売る・貸す・住む・解体のどれか
相続した実家を売る、貸す、住む、解体するの4択は、同時に比べると決まりません。先に確かめる順番と、それぞれにかかる初期費用、毎年の費用、税金と使える特例を一つの表にまとめ、数字で絞り込む手順を説明します。
先に決まる順番
相続した実家をどうするかを、4つを横に並べて悩む人が多いのですが、私は順番で絞る方が早いと考えています。順番はこうです。
- 誰が住むか。相続人の誰かが住むなら、売る・貸す・解体するは消えます。
- 住まないなら、売れる家か。立地と建物の状態で、売却価格がつくかを見ます。
- 売らないなら、貸せる家か。修繕費を家賃で回収できるかを見ます。
- 売れず貸せないなら、解体して土地だけ持つか、建物を残して管理し続けるか。
4は消去法です。ここに来た家は、持ち続けるだけで固定資産税と管理の手間が出ていきます。
順番を決めた理由は、税金の特例の多くに期限があるからです。相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件で、令和9年12月31日までの譲渡に限られます。取得費加算の特例も、相続税の申告期限の翌日から3年以内の譲渡が条件です。先に「住む」と「売る」を判断しないと、特例の期限を使い切ってしまいます。
4択の費用と税金
| 売る | 貸す | 住む | 解体する | |
|---|---|---|---|---|
| 最初にかかる費用 | 仲介手数料(上限は400万円超の部分で3.3%)、登記費用、測量費 | 修繕費、ハウスクリーニング、管理会社への委託料 | リフォーム費、引っ越し費用 | 解体費(構造と広さで変わる)、滅失登記 |
| 毎年かかる費用 | なし(売却後) | 固定資産税、修繕積立、管理料、空室期間の損失 | 固定資産税、修繕費 | 土地の固定資産税(住宅用地の特例が外れて上がる) |
| 主な税金 | 譲渡所得税(長期は所得税15%と住民税5%、復興特別所得税が別途) | 不動産所得として所得税・住民税 | なし | なし(譲渡時に譲渡所得税) |
| 使える特例 | 相続空き家の3,000万円控除、取得費加算 | なし | 小規模宅地等の特例(相続税) | 更地にしてから売れば3,000万円控除の対象になる場合あり |
表の中で見落とされやすいのが、解体後の固定資産税です。住宅が建っている土地は、200㎡以下の部分の課税標準が6分の1になる住宅用地の特例を受けています。建物を壊すとこの特例が外れ、土地の税額が上がります。解体してから売るまでの期間が長いと、この分が積み上がります。
売る場合の数字
売却で手元に残る額は、売却価格から仲介手数料、登記費用、譲渡所得税を引いた額です。譲渡所得税は「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」に税率を掛けて計算します。相続した家は親の購入時の資料が残っていないことが多く、取得費が分からない場合は売却価格の5%を取得費とする概算取得費で計算します。その場合、譲渡益がほぼ売却価格と同じになり、税額が大きくなります。
ここで効くのが相続空き家の3,000万円特別控除です。昭和56年5月31日以前に建てられた家で、亡くなった人が一人で住んでいた、売却価格が1億円以下、という要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を引けます。要件は細かいので、相続空き家の3,000万円特別控除で確認してください。
概算は売却手取りシミュレーターで出せます。税額の確定は税務署か税理士に依頼してください。
貸す場合の数字
貸す判断は、修繕費を家賃の何か月分で回収できるかで決まります。築40年の家は、給湯器、水回り、屋根の修繕で数百万円かかることが珍しくありません。月6万円の家賃で300万円の修繕費を回収するには50か月、4年以上かかります。その間の固定資産税と管理料も出ていきます。
貸す家は、戻ってきてほしい時期があるなら定期借家契約にします。普通借家契約は、貸主側に正当事由がないと更新を断れません。詳しくは空き家を貸す場合の現実にまとめました。
持ち続ける場合の数字
決めきれずに空き家のまま持つ選択は、費用がゼロに見えて最も高くつくことがあります。固定資産税、火災保険、庭木の手入れ、通風のための通い、これらが毎年出ていきます。空き家の維持費シミュレーターで年間の額を出し、10年分に伸ばして見てください。その額と売却手取りを並べると、判断は進みます。
管理を怠って管理不全空家や特定空家の勧告を受けると、住宅用地の特例が外れて土地の固定資産税が上がります。これは空き家の管理責任で説明しています。
計算に使えるツール
- 売却手取りシミュレーター: 仲介手数料と譲渡所得税を引いた手取りの概算
- 空き家の維持費シミュレーター: 固定資産税と管理費の年額
- 解体費シミュレーター: 構造と延床面積からの解体費の概算
- 小規模宅地の特例シミュレーター: 住む場合の相続税評価の減額
出典
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 地方税法 第349条の3の2(住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 宅地建物取引業者が受けることができる報酬の額(建設省告示、令和6年6月21日改正): https://www.pref.osaka.lg.jp/o130200/kenshin/kokuji/index.html